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ノーベル賞受賞者が高校生に英語で講義した内容とは

高校生に語りかけるティム・ハント博士(2001年ノーベル生理学・医学賞受賞)

2017年のノーベル賞の自然科学3賞(生理学・医学賞、物理学賞、化学賞)は欧米の研究者9氏に贈られた。日本人研究者は残念ながら受賞を逃したが、各メディアで受賞者の研究が紹介されるなど、改めて人類の明日を拓く科学の可能性に気づかされる機会となった。このタイミングで東京工業大学にて開催されたのが、“オートファジー”の研究で2016年生理学・医学賞を受賞した大隅良典博士をはじめとするノーベル賞受賞者が高校生に講義するシンポジウム「あなたと科学の明日を語ろう!Molecular Frontiers Symposium 2017 ~Science For Tomorrow~」である。

ノーベル賞受賞者が高校生に直接語りかけて指導

10月21日に行われた同シンポジウムは、スウェーデン王立科学アカデミーによって運営される非営利団体“モレキュラー・フロンティア財団(Molecular Frontiers Foundation)”が世界各地で高校生などの若者を対象に行っているもの。多くのノーベル賞受賞者を含む著名な科学者が直接、高校生に分子科学(Molecular Science)のすばらしさを語るものだ。

2006年に財団が設立されて以来、スウェーデン、シンガポール、韓国、ハンガリーなどで開催されてきたが、昨年、日本で初めて東京理科大学で開催され、今回、東京工業大学を舞台に、2度目の開催となった。受講生となる高校生は、直接応募または学校を通じた応募の上、選考で選ばれた85名である。

2日間に分けて開催されたその内容は、初日(10月21日)は、三島良直東京工業大学学長の挨拶の後、ノーベル賞受賞者を含む5名の著名な科学者の講演、2日目(10月22日)には、ノーベル賞受賞者等が直接高校生を指導する実験教室やグループワークが行われた。初日の講演はすべて英語で日本語の翻訳はなし、2日目のグループワーク後には受講生代表が成果を英語で発表するというもので、2日間にわたり85名の高校生は、世界トップの科学者から直接指導を受け、研究内容等について質問をし、その人となりに触れることができるという、すばらしい機会に恵まれた。

ノーベル賞受賞者が自身の研究について高校生に語る

初日は3名のノーベル賞受賞者を含む5名の科学者が講演を行った(アダ・ヨナス博士はビデオにて参加)。

大隅良典博士は、古い細胞質成分がアミノ酸に分解されて新たなタンパク質へと生まれ変わる、栄養のリサイクルともいえるオートファジー(自食)の仕組みを解明した功績で、2016年ノーベル生理学・医学賞を受賞した。大隅博士は、酵母細胞の液胞の働きの研究で、細胞質成分が飢餓状態で液胞内に取り込まれることや液胞に異常のある酵母が飢餓状態で生存できないことを発見し、液胞の機能に必要なタンパク質を同定して、オートファジーの仕組みを解明した研究過程を解説した。そして若い人に流行を追うのでなく自分の研究を大切にすることを望まれた。

大隅良典博士(2016年生理学・医学賞受賞)

ティム・ハント博士(Dr. Tim Hunt)はウニのタンパク質合成の研究から細胞周期の調節因子を発見した功績により2001年ノーベル生理学・医学賞を受賞した。講演では、その研究内容とともに、ハント博士の科学者としての人生を振り返りながら研究者としての哲学が語られた。

自身の科学者としての人生を語るティム・ハント博士。左の客席には、前列手前から、ベンクト・ノルデン博士、ジョゼフ・カーシュヴィンク博士、大隅良典博士

アダ・ヨナス(Dr. Ada Yonath)博士はリボソーム(タンパク質を合成する小器官)の構造研究により、2009年ノーベル化学賞を受賞した。ビデオ参加したヨナス博士は、立体構造を基に、遺伝情報からタンパク質が作られていく様子や、抗生物質が細菌のリボソームに結合して、タンパク合成の働きを阻害する様子をアニメーションで示して説明した。そのほか、スウェーデン王立科学アカデミー会員で、モレキュラー・フロンティアを創設したベンクト・ノルデン博士(Dr. Bengt Nordén)が、DNAの形状が生物学的役割を持ち、形状に水の存在が重要なことを、東京工業大学地球生命研究所主任研究者でカリフォルニア工科大学卓越教授のジョゼフ・カーシュヴィンク博士(Dr. Joseph L. Kirschvink)が人間を含む生物の磁場感知能力について、講演した。

高校生の質問に答えるジョゼフ・カーシュヴィンク博士

さらに2日目の実験教室では、2000年にノーベル化学賞を受賞した白川英樹博士も参加し、高校生を指導したという。

「将来、こういう人たちに少しでも近づきたい」

以上の講演はすべて英語で行われた。日本語の翻訳もない。講演者は高校生だからといって手加減せず、生化学の専門用語を多用し、はっきり言って内容は難しい。しかし、ノーベル賞受賞者が自らの体験と研究成果を、書籍やネット・テレビを介しては伝わらない情熱をもって講義してくれる姿は感動的ですらある。

1日目の講演終了後、何人かの高校生に感想を聞くと、次のような答えが返ってきた。

「ノーベル賞を受賞した人のスピーチを聞けて感動した」
「少しでも自分の経験になるかと思って参加したが、本当によかった」
「将来、科学の道に進みたいと思って参加した。カーシュヴィンク博士の話が面白かった」
「将来、こういう人たちに少しでも近づきたいと思った。憧れというのがあるのと、自分の道を決めるヒントがあれば得たいと思った」

「専門用語が多少多いなと思ったが、英語はわりとできるほうなので8割方、理解できた。ティム・ハント博士に、興味から物事を始めるのがカギで、研究の手がかりを見つけたらとにかくつかめ、と言われたのが心に残った」

◆取材シンポジウム:「あなたと科学の明日を語ろう!Molecular Frontiers Symposium 2017 ~Science For Tomorrow~」(東京工業大学)

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取材・文/まなナビ編集室(土肥元子) 写真提供/東京工業大学