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テリー伊藤 大学院の研究発表をしたら教室中がシーン…

9月から慶應義塾大学院生として、SFCキャンパスで心理学を学んでいる、演出家でタレントのテリー伊藤(68才)。大学の同級生が集まったら8割以上が“いいなあ”の大合唱、みんな、心の中では学びたいと思っているのだという。そんな大学院生活、しかし、初めての研究発表は、いつものテレビの仕事と随分勝手が違っていて…

1日10分、月や炎を見ると

テリー伊藤が大学院で初めて研究発表を行った日、教室はシーン…と静まりかえったままだったという。テレビ局の企画会議では笑いを交えながら行うのが通例だが、そこは異世界−−。

「ぼくたちは日々、朝起きるとテレビを見て、スマホをチェックして、車を運転して、パソコンいじって…って、基本的に人が作ったものに動かされているじゃないですか。

でも、人知の及ばない、人間がつくれない“自然”に1日10分でも15分でも触れるとどうなるんだろうって思ったんです。今のままの生活を送るよりもっと想像力が豊かになるんじゃないかって見立ててね。それで、『自然が教えてくれる教え』を分析して発表したんですよ。

具体的には、1日10分間、月や炎を見る。そうすると人は何を考え、何を想像するのか、その感想を集めたんです」(テリー伊藤。以下「」同)

忙しい仕事の合間にデータを集めながら、慣れないパワーポイント(以下パワポ)で資料を作成していった。満月の日には知人23人に「月を見た感想」を、ホームパーティの時には17人に「焚き火を見た感想」を書いてもらったものを集めた。

「昔を鮮やかに思い出したとか、涙が出てきたとか、歌を歌いたくなったとか、故郷の家族を思い出したとか、どんどんアイディアが出てきたとか、そういうすごくポジティブな反応ぞろいでした。そこから、自然に触れると心理的にもポジティブな影響があると想定できたので、今後もそういう研究をしていきたいと発表しました」

年金暮らしのお父さんも水商売のお姉さんも

発表に使ったパワポには、工夫がいっぱい。普段のテリー伊藤が携わる企画書なら若いスタッフが作るだろうが、本人自ら作り上げた力作。くたびれた高齢の男性や派手なメイクの女性の隣に「年金暮らしのお父さんも水商売のお姉さんも!」といった吹き出しの文字が書かれ、さぞ面白い発表だったと想像されるのだが……。

「発表中、一切笑いなしです。誰もクスリとも笑わない。マスコミとは全く違う世界だなと痛感しましたね。20分間の持ち時間が終わり、ぼくが話し終わった瞬間、担当の先生の第一声は『で?』でした(苦笑)」

痛烈な一言! しかし、そんな担当教授の辛口の指摘も、薄々自覚はあったという。

浅いってことなんでしょうね。テーマが絞りきれていない、と。結局、幕の内弁当みたいに色々良さそうなものを詰め込んでいる。鮭弁当だったら食べさせたいのが何かわかる。でもこの弁当は、その中でなにが一番おいしいのっていうのがわからない内容だったと思うんです。

それはすごく的を射ていて。自分でも薄々気づいていたことを指摘されたなあと思いました。

たとえば、ぼくの研究発表は、『世の中でミニスカートが流行っています、街が華やいでいます、やっぱりミニはいいですね、ミニを履きましょう』っていうくらいの内容だったってことですよね。それってエッセイであって、研究じゃないなあと。

ミニを履いてるのは女性何人中何人いるとか、たとえばどこの駅が多いとか、ミニをはくと声をかけられるのかとか、履くと精神的にどうなるのかとか、弊害はないのとか。そういうのを調べないと話にならないでしょっていうことと一緒。心理学的に、その事象をどう捉えるのかが重要になるということなんですよね」

「児童700人分、アンケート協力します」

しかし、そんな痛烈なダメ出しをくらった彼の研究に興味を持ち、面白いと言ってくれる人もいた。

「11月下旬に、東京・六本木のミッドタウンでORF(慶應大学オープンリサーチフォーラム)があって、そこにぼくも出展したんですよ。先ほどの研究内容のポスターを貼って、来場者の質問に答える、みたいなことですね。ぼくはポスターの前に椅子を置いて坐ったんです。

そうしたら、とある小学校の校長先生、50代くらいかな、その先生がぼくのところに研究内容を聞きに来て、賛同してくれて。『子供達が自然に接するのはすごくいいことだと思うので、もしよければ、児童700人分、アンケート協力します』と申し出てくださったんです。

ぼくが興味を持っていることに共感してくれる教育者のかたがいたというのは、すごくうれしかったですね」

冷えた心に火が灯ったテリー。彼が次に計画しているのは、学内で焚き火をすることだという。

「焚き火とバーベキューをしながら、炎の研究をしたいと思っているんです。SFCでは焚き火の前例がないそうなんですが、学事や先生の許可を得て、クリスマス後にやろうかなと思ってます。理想としては、これを学内での年中行事にすることですね。

「東京に蝶を呼び戻したい」といった鳩山邦夫のように

最初の研究発表は幕内弁当でダメだったかもしれないけど、やっぱりぼくは面白いことをやっていきたいんですよ。

杉村太蔵(編集部注、杉村はテリーがレギュラー出演している『サンデージャポン』の共演者でもある)も慶應の大学院に通っているんですけど、百貨店と組んで地方再生をしようっていうことをやってるんですよ。結構本格的ですよね。数字を出すことができる研究テーマですよね。

そういえば、亡くなった鳩山邦夫さんは都知事選に立候補した時、蝶マニアだということもあって『東京に蝶を呼び戻したい』って言ってましたよね。

たしかに自然は大切だとみんな思ってることだけど、福祉とか税金とかの問題に目を奪われてしまう。それに、実際に蝶が来るまで、その政策が正しいかどうかの結果が見えないじゃないですか。そういう政治家としては票になりにくいことを、大まじめに言っちゃう面白さって、ぼくはあると思ってるんですよね。

ぼくは、健康といわれる人たちの心理について学んでいきたいんです。健康な人だって不安や悩みを抱えているわけだから、そういう人たちに向けて何か面白いことがしたい。文科相に会って、世の中を変える提案をどんどんするとかね。小さくまとまらないで、事を大きくしていきたいんです」

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取材・文/辻本幸路(まなナビ編集室) 撮影/渡邉茂樹