笑いながら、こう話すのは武蔵野大学薬学部教授で同大しあわせ研究所研究員の大室弘美先生。こう言ったからといって、いい加減なのではない。これも「しあわせ」に生きるための大切なポイントなのだという。武蔵野大学文学部3年生の山口杏菜記者がレポートする。
しあわせの感じ方の基準はみな違う
「しあわせは個人で異なる、つまり、幸せと感じる基準や程度がみな異なります。また、あまりに期待しすぎると、少しでもその期待からはずれるとがっかりしてしまいます。つまり期待が大きい程、満足度(しあわせ度)が低くなります。」と大室先生。しあわせの感じ方の基準のほとんどは、相対的なものであるという。
相対的なものには、自分の中での比較と他と比較するものがある。前者の事例としては、例えば温泉に入った時や好物を食べた時にしあわせだと感じたり、満足感が得られたりする場合がある。後者の事例としては、例えば成績がクラスで1番になった時、ああしあわせだと感じるような場合がある。この場合、特定の人より劣っていることのみで自分は不幸と思い込み、精神を病むこともある。
大室先生が「期待せずに受講してください。」と言ったのは、この相対的な基準にを利用したものであったのだ。
しあわせの基礎の1つは「健康」
日本国憲法第13条「国民の権利及び義務」には、「幸福」に関する記載がある。
「すべての国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法そのほかの国政の上で、最大に尊重を必要とする。」
「幸福追求」が国民の権利であることが示されているが、「幸福」については定義されていない。しあわせは個人で異なるためであるが、しあわせの基礎の1つとなるのが、心身の健康である。
ポジティブな思考をするだけでもしあわせ感が……
しあわせの基礎である健康の維持・増進には食生活や生活習慣の改善が役立ち、それらの改善により幸せを感じさせる物質を増やすこともでき、その物質が健康の維持・増進に役立つこともある。さらに、ポジティブな思考をするというだけでも、しあわせを感じさせる物質を増やす効果があることがわかっている。
例えば、毎日ありがたく思ったことを3つ見つけるようにすることや、精神的なストレスを味方にすることである。
もちろん、紫外線などの物理的なストレスは避ける方がよいが、精神的ストレスは味方にすることで幸せを感じさせるホルモンであるオキシトシンを増やすことができるのである。
(参考記事:幸せを私たちに感じさせる物質とは?)
「ストレスは健康に悪くない」と思うだけで
アメリカで行われた次のような調査研究がある。
3万人の被験者を8年間追跡し、毎年、「この1年間にストレスを感じたか」「ストレスは健康に悪いと思うか」という質問をした。死亡者リストを調べた結果、「前年にストレスを感じた人」の死亡リスクは43%高かった。しかし、これは「ストレスは健康に悪い」と信じていた人だけに言えることだったという。
「ストレスは健康に悪いと思っていなかった人」の死亡リスクは、「ストレスは健康に悪いと思っていた人」と比べて低かっただけでなく、「この1年ストレスをあまり感じなかった」と答えた人と比べても低かった。
さらに、「ストレスは健康に悪い」という思い込みにより亡くなった人の数は毎年2万人以上と推定され、アメリカにおける死亡原因15位に相当し、皮膚がん、エイズ、自殺による死亡者数よりも多かった。以下は、それを説明するアメリカの健康心理学者、ケリー・マクゴニガル博士が、TED (Technology Entertainment Design)カンファレンスで行った『ストレスと友達になる方法』のプレゼンテーション動画である。
http://www.aoky.net/articles/kelly_mcgonigal/how_to_make_stress_your_friend.htm
精神的なストレスは日常のどこにでも存在し、完全に避けることはできない。しかし、この調査結果からわかるように、ストレスを有益だとポジティブに考えて味方にすることは、自身が幸せになり、しかもしあわせの基礎となる健康にも繋がるのである。
◆取材講座:武蔵野大学しあわせ研究所特別講座「しあわせになる薬はあるか?」(武蔵野大学公開講座・三鷹サテライト教室)
取材・文/山口杏菜(武蔵野大学文学部3年)