水の次に使われている素材がコンクリート
芝浦工大工学部教授の伊代田岳史先生のマテリアルデザイン研究室で学んでいるのが、建設工学専攻修士2年生(取材当時)の伊藤孝文さんだ。伊藤さんの研究テーマはコンクリートの耐久性。そもそもなぜ、コンクリートに興味を持ったのだろう?
「土木工学科を志望した時は、都市計画を希望していました。まちづくりをやりたいと思ったのですが、計画や構想はしても、なかなか実現には至りません。結果が出る研究はできないだろうか。橋や道路、鉄道、土など、土木が扱うあらゆる分野を見直し、行き着いたのがコンクリートでした」(伊藤孝文さん)
土木にとってコンクリートは欠かせない素材だ。世界中に普及して「水の次に使われている」とも言われている。だが、依然、謎は多いという。たとえばコンクリートは水とセメントのほか砂利や砂を混ぜて作るが、水とセメントが反応してできる水和物については、その構造をはじめ、未解明な部分が数多く残されている。コンクリートの性能を上げることができれば、世界中に貢献できるはずだ。
伊藤さんが取り組んだのがコンクリートの耐久性についての研究だ。「コンクリートを強くするために中に鉄筋を入れますが、それが数十年経つと腐食して、構造物そのものがダメになってしまいます。原因は塩分。コンクリートを作る際にいろいろな成分を混ぜて、塩害を防ぐ研究をしています」。押してもびくともしないコンクリートだが、引っ張ったり、折れ曲げたりする力には意外に弱く、砕けてしまう。それを補うのが鉄筋だ。鉄筋コンクリートは土木のあらゆる現場で使われてきたが、鉄筋がさびてしまうという弱点を持つ。
塩分を除去し、他の材料も加えて
材料中の塩分によって鉄筋のさびの進行が早まる。塩分を取り除くことができれば、さびを防ぎ、長い間、強度を保てるコンクリートを作ることができるはずだ。伊藤さんは、大学の実験室にある小型ミキサーで自分でコンクリートを練り、塩分の除去が期待できる塩害対策用混和材を配合してコンクリートを製作。塩害に強いコンクリートを作ることができたばかりでなく、セメントの種類によってその効果が異なることまで突き止めた。研究は実業界で評価され、第70回セメント技術大会で優秀講演賞を受賞した。
設備の整った芝浦工大の実験室では、他の研究も進んでいる。恒温恒湿室に保管されていたのは、製鉄所や火力発電所で出る産業副産物を材料に加えたコンクリートだ。含有する割合を変えたコンクリートをいくつも作り、収縮度などを測定して実用に耐えうるかどうかを確かめている。リサイクル資源を活用したコンクリートへの要請は強く、今後もこのような研究は増えていくという。倍率30万倍の顕微鏡も使ってコンクリートの強度や耐久性をミクロの視点から追求するのだ。
「この春から社団法人で研究員として働きます。そこでもコンクリートの研究に取り組みます。コンクリートはじつはまだまだわかっていないことが多いんです。そこを研究し続けて、すこしでも耐久性の高いコンクリートを開発できたら……」と伊藤さんは語る。
教授はもちろんだが、伊藤さんのように最前線の研究者たちもサポートに参加しているのが、まさに「現場最前線」講座の魅力のひとつだ。
〔今日のポイント3つ〕
・世界で水の次に使われているのがコンクリート
・どこにでもあるコンクリートだが、未解明なことは多い
・コンクリートの耐久性アップは日本でも世界でも大きな課題
〔研究者の今日イチ〕
橋や道路、鉄道、土など、土木が扱うあらゆる分野を見直して、行き着いたのがコンクリートでした
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〔おすすめ講座〕「体感!土木の現場最前線!!~社会を支える土木の力~」
取材講座データ | ||
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体感!土木の現場最前線!!第2回~2020年に向けて変わりゆく東京~ | 芝浦工業大学公開講座 | 2016年11月12日 |
2017年2月13日取材
文・写真/本山文明