エクセルより気になるのは先生の気づかい
エリートビジネスマンに必須な資格といえばMBA(経営学修士)。豊田先生はこの資格をめざすビジネスマンが集まる、法政大学ビジネススクールのバリバリの専任教員のひとりだ。MBAをめざすためのクールでハードな講座かと思って参加した人は、まず講師の気遣いに圧倒されることになる。
「僕は普段、物凄く早口なのですが、今日は気をつけて倍くらいのゆっくりでしゃべるようにしてますが、それでも早かったら言ってください!!」
「何かわからないことがあったら、ゼッタイにそのままにしないでください。今日は20人くらいの人数なので、質問はいつでもしてください。どんなタイミングで止めてもいいです」
「今開始から15分話をしましたが、あと35分で一旦小休憩に入りますから、あと35分です!! 頑張りましょう」
「さっきあと35分と言いましたが、これあとちょっとでキリが良くなるので、もうあと10分やります。ついてきてください」
とにかく、気づかいが半端ない!!
講師のトークに巻き込まれながら、あっと言う間に時間が経っていく。
受講者に求められる予備知識は「ゼロ」
豊田先生に「このExcel講座を受講する人に必要な予備知識は何ですか」と質問。
答えは「ゼロです!!」。
これには驚いた。
「あ、ゼロといっても、エクセル触ったことがあるという程度の予備知識は必要ですけどね」と素早く追加情報。
Excelを使ったビジネスデータの分析の基礎を学ぶ講座だが、同時に、オデッセイ コミュニケーションの資格「ビジネス統計スペシャリスト・エクセル分析ベーシック」に準拠した内容になっている。そのため、資格を取るための受講者も多い。とはいえ、学びの内容は一般の受講者にも充分に通用する。
豊田先生が凄いのは「パワーポイントは基本的に使わないで説明します。その代わり板書します。教室の生徒の皆さんを巻き込んだ講座にします」というところ。
「Excelの教科書は世間に一杯でています。それを使えば技術的なところはかなりなところまで習得できます。こういう授業では、そうした関数の使い方のような内容をやってももったいない」
では、何を教えるのか。
ひとことで言うなら、「世間で起きていることを、データを使って分析するための作法」なのだ。
ビジネスで大切なのは「データの関連性」
この日の授業は、12時30分開始、16時30分終了。休憩時間を除くと3時間30分の長丁場。男女比は1対1。30人弱の参加者は30代から50代のビジネスピープルが中心だが、早期退職して、学びを深めているシニア層などもちらほら見える。
豊田先生が「ビジネスのどまん中の話をします。それはデータとデータの関連性です」と、ひときわ大きな声をあげた。
Excelで世間の何が分析できるのか。
まず、気温のデータがあり、ビールの売り上げのデータがあったとする。二つ以上のデータの関係を探る、分析をするというのがExcelでは得意なこと。
スタートにあるのは「気温データ」「ビールの売り上げデータ」としたら、ゴールにあるのは「気温が上がるとビールの売り上げが上がる」という関係の発見となる。
世間で起きている二つ以上のことを、関連づける。それがExcelビジネスのデータ分析でもっとも「使える」部分なのだ。
「データが歪んで見える」グラフはダメ
豊田先生がさらに声を張り上げたのは「円グラフ、皆さん使いますか」というところ。
先生は「円グラフは角度の違いでデータを伝えます。これは、ぱっと見て細かいところが伝わらない」という。
「使うなら『横オビグラフ』です。これは比較が容易です」
さらに「絶対やってはいけないこと」として、円グラフをゆがめるような使い方を挙げる。
「一部分をポップアップするようなグラフ。どうしてデータが歪むような書き方をするんですか。しかも3Dにすると、さらに歪んで角度がわからなくなります」
グラフは「データの数値を正しく読み取るもの」というのが基本中の基本なのだ。
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〔受講生の今日イチ〕「あと35分で休息です!」と言われると眠気が吹っ飛ぶ。
取材講座:「エクセルで学ぶビジネスデータ分析の基礎」(法政大学経営大学院)
文・写真/奈良 巧