私たちの顔は平たいのだからがんばって理解して
語学を習う目的は何だろう。旅行に行きたい、資格を取りたい、職を得たい、いろいろあると思う。
しかしどんな目的であっても、最終的には語学は「意思疎通を図る」ためにある。言語が産まれた理由は「頭が痛い」「おなかが空いた」「3m先に食べ物がある」といった情報を的確に伝え、生き残るためだったはずだ。旅行に語学が必要なのも、資格を取ると職が得やすいのも、「意思疎通が図れると便利」だからだ。
だけど悲しいかな日本人は、実際に英語を使って人とコミュニケーションを図る楽しさよりも先に、テストでいい点を取ることが求められてきた。だから多くの人が「私は英語ができない」と言ってしょんぼりするんである。だがそんなことは大きな間違いだ。
記者は英語の専門学校を卒業した後、ゆるゆると国内外で英語を使い続け、英語のテキストの編集や、恐ろしいことに英語の先生まで経験した。その中で強く感じていることがある。
それは「私たちが平たい顔をしているのは『アルファベット言語ができませーん!』ということを表現するため」だということだ。文化や知識の方向が違うことを、顔で表現しているのだ。言わなくても伝わるのだ。できなくて当たり前なのだ。
だから、私たちが英語やヨーロッパ言語を話すとき「ちょっとがんばってしゃべってるんだから、後はおまえたちががんばって理解しろよ」と思う。
言語の根本は「意思疎通」だ。どちらもがんばって、結果、意思疎通ができれば問題ない。
イタリア語の人気講師であるマイッツァ先生は、そうした語学の根本をよく理解し、それを授業で実践してくれる先生だ。彼の授業を受けて実感した「語学を学ぶポイント3つ」をまとめてみた。
その1、知っておくだけでいい、いらない文法はたくさんある
マイッツァ先生の授業は、とにかく「簡略化=効率」という考え方だ。
「テキストは、難しいことを書くのが好き。だからたくさんの文法を載せているけれど、実際には使わない言い方もたくさんある。それらを知識として知っておくのは大事だけど、自分で使えるようにする必要はない」と言う。
記者が英語のテキスト編集をしていたとき、ネイティブの監修者が「日本人は英語を話す(書く)時にやたら関係代名詞を使いたがる」と言っていた。受験でさんざんやらされたし、知ってるからつい使いたくなるけど、ネイティブの言わない、余計に小難しい言い方になっているらしい。
語学の勉強を文法でつまずいた人は多いと思うが、恥じることはない。
マイッツァ先生は「難しい文法はほとんどいらない」と言う。
「知識として知っている」のと「実際に使える」のでは大きな違いだ。知識として知っていれば、聞いたときに理解ができる。だけど自分が話すときは「自分の知っている文法と単語」でしゃべればいい。
マイッツァ先生によると、イタリア語の時制は19もある。
「だけど、実際に使っているのは現在形、近過去と半過去の3つ。その他はほとんど使ったことがない」
だそうだ。ネイティブさえ使わない言い方を、私たちが覚える必要はどこにあるのだろう?
その2、イタリア人もLとRの違いがわからない
意外なことだけど、イタリア人もLとRの発音は同じなのだそうだ。
「えっ、Rは巻き舌でしょ?」
と思う人は多いだろう。
先生は、
「映画やCDテキストは、格好つけて巻き舌で発音しているけれど、多くの人のLとRの発音はほとんど同じ。だから日本語のラリルレロで発音してまったく問題ない」
という。
LもRも関係ない、発音もローマ字読み。先生は、
「英語やフランス語は、読み仮名をカタカナで振ると実際の発音とは異なる場合が多く問題だけど、イタリア語はカタカナで完璧に表現できるんです」
と言う。
イタリア語の場合、つづりを覚えるのが苦手な人は、カタカナで書いて音で覚えていいのだ!
その3、授業の決まりは「辞書を使わないこと」
私たちは、なにかっつーと辞書をベラベラめくって単語を調べることがえらいこと、と教わってきてやしないだろうか。マイッツァ先生の授業では違う。
授業中、生徒たちはひとりずつ、イタリア語で日記を書いて発表する。その際、言いたいことがイタリア語でわからないとき……つい、辞書を引いてしまう。
「みなさんはもう1〜3年もイタリア語を勉強してきています。その間に聞いたことがない単語は、実際にも使う頻度が低い可能性があります。日本語でよく使う言葉でも、イタリア語では使わないかもしれない。それは辞書からはわからないこと」
辞書を引くクセは、実際の会話の中でもさまたげになることが多い。会話中に3秒黙ったら次の会話に移ってしまうだろう。辞書を引くヒマなんかはない。それよりも、自分の知っている文法と単語で、自分の言いたいことを言う訓練のほうがはるかに大事なのだ。間違っても、言葉足らずでも、なにか言葉に出して「伝えよう」という意思があれば、相手はきっと理解しようとしてくれる。なぜなら私たちの顔は平たいのだから。
授業の端々に差し込まれる雑学が習得を後押しする
マイッツァ先生の授業の魅力は、こうしたさまざまな方法で、語学への敷居を低くしてくれること、そして、授業の合間に言語のバックボーンや雑学を話してくれることだ。
「イタリアは、フランスやスペインに侵略された歴史がある。そのため、それらの言語が入り交じって成り立っている。もともと使われていたラテン語は、知識階級が使っていたため、口語と文語のバランスがいい。しかしイタリア語は、いろんな言語が会話として入り交じって成り立ったので、圧倒的に話すのに向いている言語なんです」
「イタリア語には、英語の a に当たる不定冠詞がない。ローマ人はエンジニアなので数の感覚が優れているから、曖昧な言い方はしない。英語に one と a が共存しているのは、ローマ人に侵略されたから。日本語で『部屋に1匹の猫がいる』とは言うけれど『部屋に、ある猫がいる』とは言わないでしょう。それはイタリア語も同じです」
「イタリア語で『脚』は gamba。サッカーチームの大阪ガンバは、「がんばる」と脚の「ガンバ」をかけた言葉なんですね」
言語は、その成り立ちや環境が深く影響している。マイッツァ先生がこうしたバックボーンを話してくれることで、言語への敷居が、ぐっと低くなる。イタリア語の素養がなくても「ガンバ」が「脚」だということは生涯忘れないだろう。
マイッツァ先生の授業の最新情報は、TwitterやFacebookなどでも公開されている。「アントニオ マイッツァ」で検索して、あなたも今日からイタリア語を始めよう。
〔今日の名言〕 「テキストは小難しい言い方をするのが好き。覚えなくていい文法はたくさんある!」
〔大学のココイチ〕短期大学部製菓学科による製菓学科販売所。実習で作った和菓子や洋菓子を売っている。目白大学の密かな名物だ。
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取材講座データ | ||
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イタリア語会話初級2 | 目白大学エクステンションセンター | 2016年度秋期 |
2017年2月8日取材
文/和久井香菜子 写真/taka – Fotolia