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アルゼンチンタンゴ音楽とダンスの魅力

タンゴといえばアルゼンチン。音楽とダンスの両面から、アルゼンチンタンゴを心ゆくまで堪能できるオトクな講座が鶴見大学生涯学習センターで開講されている。10回連続講座の第1回に出席し、座学とともにダンス実技の体験談も合わせてレポートする。

移民がアルゼンチンに向かう船の上で

講師の相良英明先生(鶴見大学文学部名誉教授)は、英文学や比較文化論の専門家でありながら、日本アルゼンチンタンゴ連盟(FJTA)の常務理事も務める。タンゴダンスもプロ級の腕前だ。

第1回の講義のテーマは「プグリエーセのモダニズム」。ブエノスアイレス生まれのオスバルド・プグリエーセ(1905〜1995年)は、アルゼンチンタンゴを代表するピアノ奏者であり、33歳で自身の楽団を設立したマエストロだ。

激しいスタッカートと、すべての楽器が相互に絡みあう演奏が持ち味といわれ、ほかの演奏家にも大きな影響を与えた。芸術性を追求しながらも即興演奏も巧みで、ダンスを踊るのにも適したプグリエーセのタンゴ音楽は、タンゴの伝統を重んじるトラディショナル派からも前衛派からも支持される稀有な存在だったという。

プグリエーセが1924年に作曲した「レクエルド(思い出)」が効果的に使われている映画に、その名もズバリの「タンゴ」(カルロス・サウラ監督、1998年)がある。相良先生がタンゴにハマったきっかけもこの映画だったとか。「まずはこのレクエルドを聴いてほしい!」と熱っぽく語る姿が印象的だ。

70年代のブエノスアイレスのタンゴ酒場

アルゼンチンタンゴはブエノスアイレスで生まれた。その歴史は1870年ごろに遡る。19世紀末〜1920年代にかけて、芸術の世界で大きな変革の起こったモダニズムの時代だ。

当時のアルゼンチンには、ヨーロッパから大量の移民が海を渡ってきたが、その多くがカソリック。移民船の上で行われたミサで、パイプオルガンの代わりに使われたのがバンドネオンだった。哀愁漂うバンドネオンの音色がアルゼンチンタンゴに欠かせない存在となった背景には、こうした移民の歴史がある。

バンドネオン

タンゴの音源として最古のものは、1907年にパリで録音されたものだという。それを元にレコードがつくられ、タンゴは世界中に広がっていった。そのころパリに遊学していた目賀田綱美(めがたつなよし)男爵もタンゴに魅了された一人。男爵が多くのレコードを持ち帰り、日本でもタンゴが知られるようになった。

息をぴったり合わせ、抱き合うように踊るタンゴの魅力

こうしてタンゴの歴史を紐解き、映画でイメージをつかんだ後は、いよいよダンス実技の時間だ。タンゴ初挑戦の筆者もレッスンに加わった。

グルージャ鶴世先生(左)と相良英明先生(右)のペアでお手本を見せてくれるので、初心者でもイメージが湧きやすい。

実技指導は相良先生のほか、FJTA認定講師のグルージャ鶴世先生、アシスタントとしてFJTA公認インストラクターのKEIKO先生も加わり、約15名の受講生に先生が3名もつくという贅沢ぶり。

今日の目標は「体幹とコアを知ろう」だ。まずは基本中の基本である、正しい立ち方からレッスンが始まった。おへその下を意識して立ち、スーッと息を吐いて腹圧を高める。腰をグッと起こすことで背骨がピンと伸び、頭も上に引っ張り上げられるイメージだ。

まずは重心を身体の中央に感じる。次に片足ずつ体重を乗せ、左右に身体を揺らしながら重心の移動を確認する。なるほど。ここまでは初心者でもついて行ける。

次は男女ペアになって、「アブラッソ」と呼ばれる身体の組み方の練習だ。アブラッソは直訳すると「抱擁」。男性は右手を女性の背中に回し、女性は左手を男性の肩に。もう片方の手は肩ぐらいの高さで軽く握り合う。立ち方の基本に則って、正しい重心移動を意識しながら抱擁の形を取れば、2人の軸が1つに重なり、音楽のリズムに乗って美しく踊れる、はずだ。

「肩の力を抜いて、男性は腕じゃなく重心移動で女性をリードしてくださいね。女性は男性のリードに委ねて、2人できれいな軸を感じましょう」

鶴世先生のアドバイスが聞こえてくるが、初心者にとっては至難の業。そもそもアブラッソという抱擁スタイルに、どうしても照れが生じてしまう。パートナーは胸がくっつくほどの至近距離にいるのだ。

「見つめ合うのが恥ずかしければ、視線は外しても構いません」と相良先生。

「でも身体を寄せ合うと息も合わせやすいですよ。せっかくだから、アルゼンチン人になりきってみましょう!」

さらに「バルドッサ」と呼ばれる基本ステップを習い、音楽に合わせて見よう見真似で動いてみる。わずかに余裕が出たところで周りを見回すと、筆者と同じように苦戦している人もいれば、なめらかにステップを踏んでいる人もいる。聞けば受講3年目だというその女性は、「最初はぎこちなかったけど、ようやく少しコツがつかめてきたんですよ」とのこと。

1回の体験レッスンでは、とても「ダンス」と呼べる代物にはならない。だが、自由自在にステップを踏めれば、さぞ楽しいに違いない! その実感だけは確かな手応えとして残った。

〔講師の今日イチ〕さあ、アルゼンチン人になった気分で踊りましょう!
〔受講生の今日イチ〕老若男女を問わず、受講生は一様に若々しい。タンゴの賜物か!?

取材講座データ
「アルゼンチンタンゴ音楽とダンスの魅力」 鶴見大学生涯学習センター 2017年春期

文/小島和子 写真/@Scott Griessel, @300dpi / fotolia、小島和子(講座写真)