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もう薬に頼らない。睡眠ダイアリーをつけて【不眠】を根本解決

毎晩、どうしてもすーっと眠ることができない。あるいは寝ている途中で目が覚めてしまい眠れなくなる人は数多い。しかし薬に頼り続けるのはちょっと怖いと思う人も多いはずだ。そうした不眠に悩む人に向けて、早稲田大学人間科学学術院の岡島義(おかじま・いさ)先生が勧めるのが、認知行動療法を利用した睡眠改善方法だ。まずは不眠症かどうかを「あなたが不眠症かどうかがわかる、8つのクイズ」でチェックしてみよう。6点以上の人、また5点以下でも睡眠に不満がある人は試してみる価値がある。

自分でゴールを決めて、自分で自分のクセを直す

認知行動療法とは、その人の体質や遺伝に着目するのではなく、考え方のクセや生活習慣といった、変えられる部分を修正することで、問題を解決していこうという療法だ。

認知行動療法による不眠症改善には以下のメリットがあるという。

〇寝つき、中途覚醒(寝ている途中で目が覚めること)、睡眠の質の改善効果が期待できる。
〇睡眠薬による治療と同等か、それ以上の効果を発揮する。
〇こころの病気や身体の病気を患っている不眠症の人にも効果がある。
〇睡眠薬と併用できるし、併用しても効果がある。
〇睡眠薬を減らす、もしくはやめることを手助けする。

岡島先生は、臨床心理士・専門行動療法士としての臨床経験から、認知行動療法で不眠症が希望通り改善する人は6割、希望まではいかなくても不眠症が軽減する人が3割弱いるという。ただし、効果が得られないという人も1割ちょっといる。

ここでいう「希望」とは、個々人が目標とするゴールのことだ。このゴールは人によって違う。夜眠れず昼間眠くて仕方がないという人なら、昼間の仕事に支障がなくなるのがゴールかもしれない。寝つきが悪いのが気になって仕方がないとう人なら、30分以内に寝つけるようになるというのがゴールになるかもしれない。認知行動療法は、その人が自分で考え方や生活習慣を変えていくことに大きな意味がある。だから自分だけのゴールを自分で考えることから、認知行動療法はスタートする。

 11項目記録することで、あなたの睡眠が丸裸に

ゴールを決めれば次に行うのはただひとつ、ひたすら自分の睡眠を記録し続けることだ。

具体的には次の11項目を記録する。

(1)昨晩、寝床に入った時刻は?
   回答例:23:00
(2)電気を消して寝ようとした時刻は?
   回答例:23:05
(3)電気を消したあと、何分くらいで眠れたか?(分) 
   回答例:60分
(4)夜寝た後に何回目が覚めたか?(回数)
   回答例:3回
(5)目が覚めてしまった後、どれくらい眠れなかったか?(分)
   回答例:20分、30分、40分
(6)今朝、最初に目が覚めた時刻は?
   回答例:06:00
(7)寝床から出た時刻は?
   回答例:07:00
(8)今朝、どれくらいよく眠れたかと思ったか、1(全然眠れなかった)から10(よく眠れた)までの10段階で表すとすれば?
   回答例:3(あまり眠れなかった)
(9)日中の活動にどのくらい支障をきたしたか、1(深刻)から10(問題なかった)までの10段階で表すとすれば?
   回答例:5(それなりに支障をきたした)
(10)睡眠時間(眠った時間)は?(分)
   回答例:270分
(11)臥床時間(寝床にいた時間)は?(分)
   回答例:480分

臥床時間は寝床に入ってから寝床を出るまでの時間だ。睡眠時間は、臥床時間から、寝つくまでにかかった時間・途中目が覚めてから再び寝つくまでにかかった時間、目が覚めてから床を離れる時間を引いて算出する。

昼寝をする習慣のある人や、夕食後にうたたねをする人は、それらの項目を付け加えるとよい。

睡眠の質がわかる

これをまずは1週間記録し続けてみて、平均を出してみよう。

なぜ1週間記録するかというと、前日睡眠不足だと翌日それを取り戻そうと調整する仕組みが人間の体には備わっていること(これを恒常性=ホメオスタシスという)、そしてその人が眠れる総睡眠時間は大きく変化しない、ということがあるからだ。

月曜日眠れなかった、でも火曜日は眠れたといった、毎日のことに一喜一憂しないで、1週間記録をとって平均値を出すことで、あなたの睡眠の本当の状況が明らかになる。

そして、1週間の平均睡眠時間を平均臥床時間で割り、100を掛けたものが睡眠効率だ。

睡眠効率(%)=睡眠時間(分)÷臥床時間(分)×100

ちなみに、たった一日の例ではあるが、上の回答例では睡眠効率は56.25%となる。

睡眠効率が79%以下の人は不眠の可能性が高いので、記録を取り続けながら、不眠の原因を生活習慣から探ることになる。

睡眠効率が80%~84%の人は記録を取り続けながら様子を見る。

睡眠効率が85%以上なのに、日中に耐えがたい眠気があるなら、それは不眠症ではなく睡眠不足の可能性が高い。その場合は睡眠時間+15分くらい寝床に入っているよう心掛けて、さらに記録を取り続ける。

一般的に、睡眠に問題を感じていない人では睡眠効率は90%を越えるという。

4週間記録をとれば睡眠の問題点がわかる

このように、自分で記録を取り続けながら原因を探り、自分で決めた目指すゴールに近づこうというのが、不眠症の認知行動療法だ。睡眠ダイアリーはその気づきのための有効な手段だ。

岡島先生は、どんなにたくさん本を読んで知識を身につけても、実践しないと不眠症の解決はできないと、ワークシートと情報ページが合体した『4週間でぐっすり眠れる本─つけるだけで不眠が治る睡眠ダイアリー』(さくら舎刊)を上梓している。

『4週間でぐっすり眠れる本』に掲載されている睡眠ダイアリー

本書では4週間の睡眠ダイアリーが記録できるようになっており、本記事で説明したような書き入れの注意点だけでなく、よい睡眠のためにしたほうがよいこと・してはいけないことや、レム睡眠・ノンレム睡眠などの科学的知識が詳細に解説されている。

また、スマホで記録を取りたい方のために、岡島先生がNECソリューションイノベータと開発したスマートフォンアプリ「睡眠日誌」も無償で提供されている。

周囲の人に理解してもらえず、日中の仕事や家事のパフォーマンスを低下させてしまう不眠症と今度こそおさらばするために、今日から睡眠を記録する習慣を持とう。

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取材・文・写真/まなナビ編集室(土肥元子)