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こんな風に英語を習いたかった!最先端小学英語の模擬授業

全身を使って小学英語の模擬授業を行う幡井先生

上智大学で開催されている「小学校英語教育入門」講座には毎回、指導経験豊富な先生がゲスト講師として招かれている。取材した日は、昭和女子大学附属昭和小学校英語科主任の幡井理恵先生の模擬授業が行われた。受けた感想は、「こんな授業を受けたかった!」の一言だ。(「中高6年間習っても喋れない…小学英語を大人も学べ」参照)

複数形の「s」はこうして教える

幡井先生は、文科省が実施する「英語教育推進リーダー中央研修」で養成された英語教育推進リーダーの一人だ。現在は昭和女子大学附属昭和小学校の英語科主任として、毎日小学生に英語を教えている。

幡井先生が授業に取り入れているのが「教科連携」だ。これは、他教科ですでに扱ったことのある内容を題材とし、「聞く・話す・読む・書く」の4技能を高めるものだが、どういうものかは、上智大学「小学校英語教育入門」講座で行われた次の模擬授業を見れば、一目でわかる。講座に集まった“大人たち”に、幡井先生は呼びかけた。

「皆さん、小学5年生になった気持ちになって受けてください!」

まずは生活・理科との連携からだ。幡井先生は下のスライドを見せ、質問を投げかけた。

What kind of flower is this?(これは何の花?)」(幡井先生の英語の発言はエンジ色。以下同)

幡井先生は言う。

「子どもたちはたいてい、わからないといった顔をします。そして英語で様々なヒントを与えた後、子どもたちが何の花か分かり始めた頃に次の写真へと転換すると、ワアーっと歓声があがるのです」

 

Grape!
Not only one. Many, many.

「子どもたちは最初、単数で答えます。そこで、1つではないことを伝えて、子どもたちが気づいたところで正解を伝えます」

Grapes.(sの音を強調して)」

「このやりとりで、複数形のときには最後に “s” をつけるという知識が実感とともに体得できます。さあ、次は “色” の表現を知る授業ですよ」

色もクイズで覚える

 

What are these?
「ピーマン!」
Yes, peppers! What color are they?
Green!
Really?

(子どもたちからいろいろな色が英語であがります)

Red!
Yellow!
Green!

「ここで次の写真を見せて、子供たちから歓声があがったらしめたものです。そして再度色を英語で確認します」

 

「色を教えるときには、ちょっと複雑な色を教えるのもよいですね。たとえば wine red(ワインレッド)や light blue(ライトブルー)。2つの語をくっつけると別の単語になることを教えられます」

数字を英語でブツブツ言えるようになれば

「算数との連携には、次のような積み木の絵も効果があります」

Let’s calculate! How many?  What’s your idea?
(数えてみて。いくつあると思う?)
Eight!
Nine!
How do you calculate?
Five plus three plus one!
Same idea?
Three plus three plus three !

「数え方を聞くことは、その子の考え方を聞くことになります。背景まで数える子もいれば、表に見えている数だけを答える子もいます。また、その数え方も、下の段から数える子、端から数える子とさまざまです。それぞれ違う考え方の表現を学ぶことも勉強になります」

積み木をさらに増やせば、もっと複雑になるという。複雑になればなるほど、ブツブツつぶやいたりする子が出はじめる。数字を英語でつぶやき始めれば大成功だ。

「大人でも、fifteen fifty の聞き分けができない人はたくさんいます。この要因の一つは、英語の数字に慣れていないからです。ブツブツ英語でつぶやくことは、数字に慣れるためにはとても大切なことです」

さらに掛け算なども加えていくと、算数としても英語としても、高度になっていく。大人でも、掛け算・割り算を英語でどう言えばよいかわからないのだから、これを小学校からやれば生きた英語が身につく。

絵を描くのが得意な子は問題を作る

上の授業は、英語学習としては「How many~?」という表現を身につける機会になるが、もちろんそれだけではない。

昭和小学校では、こうした課題をグループで考えさせることが多い。すると、立体図の裏側に隠れているブロックも数に入れるべきかどうかなど、仲間と相談する場面が出てくる。自分とは違う数え方をする人がいることがわかり、仲間と協調しながら考えを深めるという経験につながるのだという。

また、こうした図形を参考にして、「今度は自分たちで問題を作ってみよう」と、グループに課題を与えると、算数は苦手だけど絵を描くのが得意な子は、率先して問題をつくる。子供たちは大人が教えなくても自分の得意なことでチームに貢献するようになる

算数に強くなるだけなら、そろばんをマスターさせたり、塾に通わせたりすればいいのかもしれない。だがそろばんを買えない子どももいるだろうし、すべての家庭で塾通いができるわけではない。学校教育では、どのような子どもにも学びの機会は平等にある。

「教科連携を通して、日本中のどんな子どもたちも輝ける機会をつくりたいんです。発達段階に合わせ、徐々にその世界を広げてあげたい」と幡井先生は熱を込める。

小学校低学年なら家の周り、中学年は住んでいる町

幡井先生の模擬授業の最後に登場したのは、東京都の地下鉄路線図。もちろん英語マップだ。

英語の地下鉄路線図は、ローマ字を覚えるのに便利なんです。ローマ字を一番使うのは地名人名ですよね。しかも子供たちは乗り物が大好きですから、喜んで読んでいきます」

これについて、本講座のコーディネーターを務める上智大学短期大学部英語科准教授の狩野晶子先生はこう語る。

「子供は発達段階にあり、まだ抽象概念を完全には理解できません。自分の関心のあることにしか興味を持たないし、理解しないのです。その範囲は、小学校の低学年(1,2年)なら自分の家の周り、中学年(3,4年)くらいで自分の住んでいる町、そして高学年(5,6年)で市町村から都道府県くらいまで実感を伴って分かってきます。子供たちの発達に応じて、その世界を徐々に広げながら英語学習に結びつけていくことが大切です」(狩野先生)

子供にわかる英語にして教えることが大切だが、それはけっして、不自然なほどゆっくり喋ることではなく、子供がふだん触れていそうな言葉にして話すことだという。

高学年になればなるほど、英語以外の内容が興味のわくものでないと、子供たちは英語を覚えなくなります。なので、教科と英語を一緒に教えるのはとてもよいことです。今日の授業も、一見、むずかしく思えるかもしれませんが、子供たちはむずかしくてもわかるんですよ。子供の難しさと大人の難しさは違います。どこまで押していいか、どこまでチャレンジしていいか。それが、小学校の先生の力の発揮しどころです」(狩野先生)

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文/小島和子 写真/小島和子(講義風景)、SVD(植物)、fotolia(積み木)、(c) japolia / fotolia