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【AI早わかり】人間の知能とどこが同じでどこが違う?

ニュースでその名を目にし耳にするたびに期待と不安に胸がざわつくトピックス、それが人工知能(AI=Artificial Intelligence)だろう。それを物語るかのように東京理科大学で開催された公開講座「人工知能と人間の知能」には多くの人が詰めかけた。いったい人工知能と人間の知能はどこがどう違うのか。

人間の進歩は直線的、技術の進歩は倍々ゲーム

グーグル・ディープマインド社が開発した「AlphaGo(アルファ碁)」がプロ棋士李九段との五番勝負で4勝したのは2016年3月のことだった。

ところが今年10月、この「AlphaGo」に新バージョン「AlphaGo Zero(アルファ碁ゼロ)」が100戦100勝したことが報道された。しかも旧バージョンが棋譜を用いた学習と自己対局による学習によって囲碁をマスターしたのに対し、「AlphaGo Zero」は自己対局のみによる学習で勝利したのである。

なぜ技術は、私たちの想像を超える速さで進化するのか。「人工知能と人間の知能」講座の講師を務める東京理科大学の太原育夫教授(工学部第二部経営工学科)は、「進歩のスピードが根本的に違うのです」と説く。

「たとえばCPUの能力やメモリの容量などがわかりやすいですが、技術の進歩は倍々ゲームで発展していきます。それはたとえば細菌の繁殖にも似ています。

細菌は1個の菌が2個になり、2個が4個に、4個が8個に、8個が16個に……と増えていきますよね

しかし人間は変化をリニア(直線)に捉えがちです。技術の進歩もそうなら予測が立てやすいのですが、倍々ゲームで発展していく場合、なかなか予測が立てられないのです」(太原先生。以下「 」内同)

太原先生はAIの専門家なだけに、講座の内容はAIの歴史から、論理、意識や心との関係……と盛りだくさんで、90分が非常に短く感じられる充実度だった。
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AIは脳のニューロンを真似ることから始まった

太原先生は、人工知能は総称であって、人工知能=装置(特定のプログラム)という考え方は誤解を招きやすい、という。

人間の脳の情報処理は、外部情報を認識し、知識や探索・推論と重ねて、ある行動に結びつけるということをやっています。この人間の脳の情報処理をコンピュータで実現しようというのがAIです。

このうち、知識・探索・推論に関する研究は進んでいましたが、外部情報から特徴を抽出して記号処理や計算を可能にしたのが、今のAIブームを牽引している『深層学習(ディープラーニング)』です」(太原先生)
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頻繁にその名称を耳にする『機械学習』『深層学習』は、以下のような関係にある。

人工知能、機械学習、深層学習の概念図(講座レジュメより)

ではどのようにして、AIは現在の『深層学習』を獲得していったのだろうか。その歴史を振り返ってみよう。

最初は形式ニューロンから

まず押さえておきたいのは、現在のAIブームは第3次AIブームだということだ。第1次ブームは第2次世界大戦末期から1950年代。そして第2次ブームは1980年代だ。講座のレジュメに掲載されていた「人工知能研究の歴史」(下図)を見れば、その流れがわかる。

人工知能研究の歴史(講座レジュメより)

「Artificial Intelligence(=AI、人工知能)」という言葉がはじめて使われたのが、1956年のダートマス会議だ。

ではそもそも、人間の「知的」情報処理を人工的に実現しようという試みは、いったいどういったものだったのだろうか。

最初の試みは人間の脳に学ぶということであった。人間の脳はニューロンと呼ばれる神経細胞から構成されるネットワークである。

脳のニューロン(講座レジュメより)

ニューロンは上の図のような構造をしている。ニューロンは入力パルス(信号)を受けると加算処理を行いその結果に応じてほかのニューロンにパルスを送る。このようにして、すなわちニューラルネットワークの情報伝達と情報処理が行われる

このニューロンを数理モデル化したものが下の図で、「形式ニューロン」と呼ばれるものだ。

ニューロンを数理モデルに置き換えたもの(講座レジュメより)

上の図のxは入力信号、wは重み(weight)、θはしきい値で,入力の重み付け総和がしきい値を越えたらニューロンは1を出力する.このwとθがパラメータ(媒介変数)で、この値を学習用データから適応的に決めるのが「機械学習」だ。

今のAIブームの主軸をなす『深層学習』

1961年に生まれたパーセプトロンというニューラルネットワークは、ニューロンを並列に組み合わせたもので、入力データに対する正しい出力を教えることでパラメータを学習させるというものだった。

しかし、パーセプトロンの本質的識別能力は期待したほどではなく,識別能力を高めるにはニューラルネットワークの多層化が必要であることはわかっていたが,学習が困難であり,ニューラルネットワークに関する研究は下火になった。それに代わって記号処理を主体とした研究が盛んになった。キーワードは「知識」であり、論理や推論が注目され、専門家の知識や技術のデータをコンピュータに入れてコンピュータが推論する「エキスパートシステム」が開発された。これが第2次AIブームである。しかしそこにも限界が見え、ブームは終わる。

下の図に示すような多層ニューラルネットワークの学習方法(誤差逆伝播法)が提案されて様々な実用上の工夫がなされ、インターネットの普及により大量のデータが利用可能になったことから生み出されたのが、現代の第3次AIブームをけん引する『深層学習』だ。

多層ニューラルネットワーク(講座レジュメより)

太原先生が冒頭で言うように、人間の情報処理は外部情報を認識し、知識や探索・推論と重ねて、ある行動に結びつけるということを行っている。外部情報の認識・識別が『深層学習』で可能になったことを証明した有名な例が、グーグル(Google)が2012年に発表した猫の画像認識だ。

インターネット上の人や猫の200×200ピクセルの画像1000万枚をコンピュータに入れ、深層学習させたところ、特徴抽出を行い識別できるようになったというものである。

機械学習にはどんなものがあるのか

AIの基本となる「機械学習」により、与えられたデータに対してそれを分類したり予測したりすることが可能になるが、その学習方法には大きく分けて三つある。

教師なし学習
データだけを与えて学習させる。たとえば、データを二つに分けよ、三つに分けよという要求だけ与えてクラスタリング(クラスを分ける)をしたり、与えられたデータをより低次元で表現したりするための学習がこれに当る。

教師あり学習
学習用データとその識別結果(正解)のペアを与えることで、正しく識別できるように学習する。「AlphaGo(アルファ碁)」は「教師あり学習」で棋譜を学習した。自動車の車載カメラによるパターン認識などもこの学習方法を用いている。

強化学習
一連の行動に対して報酬が得られたら、それをさらに強化していくというものだ。冒頭で紹介した「AlphaGo Zero(アルファ碁ゼロ)」は自己対局という強化学習によって性能の向上を図ったとされる。

人間の知能と人工知能はどこが違うのか

講座で興味深かったのは、人工知能と比較することで、人間の知能とは何か、ということが見えてくることだ。

たとえば、人間の脳は情報の伝達と情報処理・記憶を同時にやっているが、コンピュータは記憶を貯めるメモリと演算をするところは分かれている

また、私たちは知識も大事だが問題の解き方・考え方はもっと大事だといわれてきた。しかし人工知能の研究によって、問題解決をアルゴリズムのみで行うのには限界があり、人間の知識にあたる膨大なデータがそもそも大切であることが再認識させられた。

中でも「心と意識」の問題は、人工知能の大きな課題となっている。これについては次回に。

太原育夫
たはら・いくお 東京理科大学工学部第二部経営工学科嘱託教授 工学博士
1979年、東京大学大学院博士課程修了後、東京理科大学理工学部助手、講師、助教授、教授を経て現在嘱託教授。研究領域は、人工知能、準無矛盾推論。著書に『人工知能入門』『新人工知能の基礎知識』ほか。

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◆取材講座:「人工知能と人間の知能」(東京理科大学公開講座 )

取材・文・/まなナビ編集室(土肥元子)