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『ダウントン・アビー』が題材の人気講座で学べること

ダウントン・アビーのロケ地、ハイクレア城

1912~1925年のイギリス・ヨークシャーのダウントン村にある貴族の屋敷・ダウントンアビーを舞台に繰り広げられる、陰謀、策略、サスペンス、歴史、恋のかけひき。ハラハラドキドキの要素がこれでもかとぎっしり詰まり、どんでん返しに次ぐどんでん返し。一度観はじめらたら止められない大人気ドラマ『ダウントン・アビー』。その魅力に迫る講座がある。

男爵も製作に関わって、完璧な時代考証

『ダウントン・アビー』はイギリスで2010年に放送をスタートしてから、本国のみならず世界200か国以上で大ヒットしているイギリス貴族のドラマ。日本ではいま、最終第6シーズンがNHK総合で終盤を迎えている。

この大人気ドラマを教材に、イギリス貴族の生活はもとより、イギリスという国自体を深く読みとくのが、早稲田大学オープンカレッジ「イギリス貴族『ダウントン・アビー』からみる〈戦間期〉英国―新しい時代の息吹と貴族社会」だ。これまでに3期連続開講され、ドラマ同様に人気が高く、リピーターが多いのも特徴。今期はついに最終の第5&6シーズンを取り上げ、ドラマと同じく、講義もまさに佳境を迎えている。

講師の早稲田大学教授・松園伸先生は、英国王立歴史学会正会員の資格を持つ英国史の専門家。過去には「近現代スコットランドの歴史」「イギリスの歴史を読み解く 連合王国の過去、現代、未来」など、イギリスを軸に10年に渡りさまざまな講座を開いているのだが、数年前に生徒からすすめられるまで、『ダウントン・アビー』の存在を知らなかったという。ところが、観てみたらドハマり! その理由が、松園先生も舌を巻く「時代考証のすごさ」だという。

「初めはイギリス史を専門としているので、どんなに小さいアラでも見逃がさないぞと、ちょっといじわるな気持ちで観始めたんです。ところが、まったくスキがない。衣装や調度、乗り物、食べ物など、細部にわたって当時の貴族の生活を本当にリアルに描いていて、ストーリーもおもしろい。ここまでしっかりと時代考証され、完璧に再現したドラマはほかにないでしょう。さすが現実に一代貴族ジュリアン・フェロウズが製作に関わっているだけはありますね

階級・宗教・ネイション(民族)の問題が

そして、『ダウントン・アビー』にさらに深いリアリティーを与えているのが、イギリス社会を読み解くのに欠かせない3つのポイント―階級・宗教・ネイション(民族)の問題がしっかりと描かれていることです。これはイギリスの貴族社会のみならず、イギリス史を学ぶのに、すばらしい教材になるなと確信しました」(この3つのポイントについては、次の記事でくわしく解説する)

受講生は40代~70代くらいで女性7割。皆さん開講時間のかなり前から着席し、待ちきれない様子。それもそのはず、講座はドラマの場面を紹介しながら、その陰にある貴族制度やイギリス社会の仕組みなどを、知識がなくてもわかるように丁寧に解説していくという贅沢な内容。半年前から『ダウントン』にハマり中の記者も、先生の説明を聞いて目からウロコ状態。この講座を聞くと聞かないとでは、ドラマの味わい方にも雲泥の差が出るではないか。

それにしても、なぜこのドラマに私たち日本人は魅せられるのだろう。時代も場所も価値観も、現代の日本とはまったく違う。日本人は一人も出てこない。なのになぜ?

松園先生は、日本人が『ダウントン』にシンパシーを抱く理由があるのだという。

スカッと明るいアメリカよりも

「王政・天皇制があるなど、日本とイギリスは共通項が多い」(写真はエリザベス女王の居城、バッキンガム宮殿)

イギリス貴族の世界、ましてや階級・宗教・ネイションなんて、日本人にはいまいちピンとこないのではと思いきや、こんなに夢中になってしまうのには、日本とイギリスの共通項が大きいと松園先生はいう。

島国であり海洋国家。王政・天皇制がある。自由と民主主義を愛する。規律やマナーを愛する。このように、政治や風土から、メンタリティーに至るまで、日本とイギリスは共通項が多いんです。

近代日本が最初に海外と同盟を結んだのはイギリス。1902年の日英同盟が最初です。また、明治の初めから、日本のお雇い外国人のほとんどは英国人でした。車も同じ右ハンドルですしね。

『ロンドンに飽きた人は人生に飽きた人である』という諺がありますが、これをイギリスに置き換えてもよいかもしれません。とくに日本人にとっては、理解できるようなできないような、“飽きない国”なのです

確かに、スカッと明るいアメリカより、ちょっとガンコで独自の道をいくイギリスに、日本人は共感を抱きやすいのかもしれない。故・ダイアナ妃のことも、みんな異様なほど大好きだったし!

『ダウントン』でイギリスを読み解くことが興味深いのはもちろんだが、こうしたストーリー、いつかどこかで観たような……。そうだ!重厚でどろどろの源氏物語や大奥の物語だ。あるいはありえない設定やどんでん返しで’70~80年代に一世を風靡した大映ドラマ(山口百恵主演『赤いシリーズ』、『スチュワーデス物語』、『スクール☆ウォーズ』など、大映テレビが制作したドラマ)にも通じるかも。ドラマってやっぱりこうでなくっちゃね、というところも、日本人の萌え心を煽るのだ。

『ダウントン』の日本での放送はそろそろ終わりを迎えてしまうけれど、記者の周囲ではDVDや動画配信サービスなどで同作を観始める人が増えている。そこで、本講座で取り上げられた『ダウントン』を見るときの大切なポイント、知っておくといっそうおもしろくなる背景を、次回から2回に分けて掲載する。主人公のクローリー家の人々、使用人たちが複雑にからみ合って、何度観ても新しい発見がある。観始めたら抜けられない底なし沼にはまること間違いなしだ。

(「『ダウントン・アビー』に学ぶ英国の階級・宗教・民族」に続く)

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取材講座:「イギリス貴族『ダウントン・アビー』からみる〈戦間期〉英国─新しい時代の息吹と貴族社会」(早稲田大学エクステンションセンター早稲田校)
文/まなナビ編集部 写真/(c)wayne、(c)Dutourdumonde / fotolia