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「学ぶことに終わりはない」大学で学ぶ80代女性の言葉

國學院大學オープンカレッジ修了式

多くの大学のオープンカレッジ(公開講座)では、一定数の講座を受講し修了した人に修了証書を授与している。卒業式のような修了証書授与式を開いているところも多くあり、國學院大學もそのひとつ。2017年春、修了証書を授与された受講生が語る “学びと私” とは。

退職後何をしたらいいかわからなかったが……

「これまで仕事で忙しかったのが、退職して、急に暇になったらどうなっちゃうんだろう……と、定年前から不安に思っていました。何かしなきゃ、と思っても、何をしたらいいかわからない。そんな時、大学でこうした講座を開いていることを知ったんです。で、学生時代を過ごしたここ(國學院大學)でもやっていることを知って、何十年ぶりかに舞い戻ってみようかな、と。学生時代に専攻したのは歴史だったんですが、あえてそれまであまり勉強してこなかった文学系の講座を選びました」

こう語るのは、数年前から國學院オープンカレッジに通い始めたという60代の女性だ。彼女は今年、32単位を取得して、オープンカレッジ修了証書を授与された。

同学のオープンカレッジの単位は、原則として担当講師が毎回出席をとり、3分の2以上の出席(5回の講座の場合3回、10回の講座の場合7回)でそれぞれ1単位、2単位の単位が付与される。その累積単位が32単位になった受講生には、毎年3月に行われる國學院大學オープンカレッジ修了式で「修了証書」が贈られるのだ。この日も、金屏風の前に立つ公開講座委員長・文学部教授の小川直之先生から、受講生1人ずつに修了証書が授与された。

 

その模様は本当に卒業式そのもの。修了生も女性は着物やワンピースでドレスアップ、男性はスーツにネクタイの人も多い。違うのは、修了生の中に大学の卒業生の祖父母くらいの年齢の人までいるということと、修了証を受け取って終わりというのではなく、その後もずっと通い続けることだ。

70才になったからといって家にひきこもりたくはない

多くの受講生が語るのは、社会経験があるだけに、学びの動機とスタイルが現役の学生時代とはまったく異なることだ。

「私は70才になったときに、何かを始めたいと思ってここに通い始めました。受講したのは神道関連のものばかりでしたね。これまで仕事ばかりの人生だったので、日本人として神道のことをもっと学びたいと思ったんです。年を取ったからといって、家に引きこもりたくはなかった。知らない人と新たな関係を築ける場に行きたかったというのもありますね。新しい学びと新しい人間関係。人生をリセットした気になりますよ」(70代男性)

「もともと演劇の戯曲の勉強をしていたのがきっかけで、神道や神学について深く知りたいなと思って通い始めました。私の場合は、より深い知識を得たことで、ちょっとした物の見方が変わった気がします。たとえば勉強する前は、神社といえば『パワースポット』くらいにしか思っていなかったんですが、ひとつの神社が存続していくのがどれほど大変なことか、そういうことも考えられるようになりました。地元の人たちとの結びつきが大切だとか、歴史を積み重ねていくための努力だとかですね。おかげで今では神社に行っても、宮司さんたちはこんな努力をされているんだな、といったことまで考えるようになりました」(60代女性)

そこには、現役時代は時間などの制約があって学べなかったことをようやく勉強できるようになった楽しさ、学ぶことで何かが変わることを実感できた喜びがある。

家族を介護しながら、仕事を続けながら

しかし、学び続けるというのは、実際にはそんなに楽なことではないのです、と、このオープンカレッジの運営に携わり、今年退職した元事務局のIさんは語る。

「32単位を取るには何年もかかります。そして何年も学び続けるというのは、本当に大変なことなんです。皆さん、けっして時間的余裕や経済的余裕がある方ばかりではありません。なかにはご家族の介護でなかなか時間が取れないけれども私は学び続けたい、それが生きがいなんです、とおっしゃって、時には中断しながらも、がんばって通ってらした方がいました。そういう方が修了証を受け取られるときには、こちらも感動して嬉し涙が出てきます。そうしたがんばりに報いたいという気持ちもあって、きちんとした修了式をしたいと思ってきました」

今回も、仕事しながら通い続けて32単位を取った受講生がいた。

「仕事柄、歴史や文学に興味があったんですが、意を決して3年前から『万葉集』と『源氏物語』を勉強し始めたらはまってしまいましたね」(40代女性)

「書道の師範代としての資格も持っていて仕事に生かしていますが、このままやっていくには何かが不足してくると感じたんです。通い続けるのは大変でしたが、書道の歴史や古典文学を勉強することで、数十年間続けてきた書道により深みが出てきたような気がします」(50代女性)

80代女性たちが、「一生勉強していきたい」と語る理由は

学び始めるのに年齢は関係ないとはいうが、修了式には80代の人も多い。

「もう30年以上、こちらに来ているんですよ。華道などの日本の伝統文化をずっと学んでいるんですが、同じ講座を何度受講しても、けっして飽きることがないんです。それほど奥が深い。きっと死ぬまで勉強し続けますね」(80代女性)

「50代から30年以上、いろんな講座を受講してきました。ここだけじゃなくて、いろいろな大学の講座に通いました。それこそお習字から法律関係まで、自分でもあきれ返るくらい、さまざまな講座に行きました。なぜかって? 学ぶことには終わりがないんですよ。ひとつ学ぶと、知ってることが増えますでしょ。そうすると、今まで知っていたことと、どこかでつながってくるんです。ああ、こういうことだったのかって。新聞を読んでも、前よりずっと関心を持てるようになりました。そうするとね、生きていることが楽しくなるんですよ。だからね、私はここに生きるために来ているようなものなんです。学びは人生そのもの。一生勉強ですね」(80代・女性)

こうした大先輩にパワーをもらう人も多い。

「ずっと仕事をしていたんですが、ボケ防止で退職直前からここで受講しています。毎月3~4回授業に通うと、生活にリズムができるし、お友達もできますし。私の取っているクラスには80代の女性の方がいらして、『まだまだ勉強するわよ!』とおっしゃっていて本当にすごい。そういう姿を見ると励みになります」

こう語るのは60代女性。今期から3講座を受講するとのことだった。

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〔大学のココイチ〕修了式の記念品には、日本古来の絵巻物を使った一筆書きやはがき、しおりや図書カードなどが渡される。和テイストたっぷりの記念品の数々は、まさに國學院ならでは。

文・写真/藤村はるな