ゲタ履きにジャンパー姿で気軽に参加できる
日曜朝9時、駒澤大学駒沢キャンパスの本格的な坐禅堂で坐禅が始まる。昭和37年から55年間続く坐禅講座だ。坐禅が9時から10時まで、そのあと講義が10時から11時まで持たれる。大学の行事の都合などで休講になる場合を除いて毎週開講されるので、年に30回ほど行われている。
駒澤大学の禅研究館4階にある坐禅堂には8時半頃から受講者が集まり始める。ここは140人が参加可能な坐禅堂で、「大本山永平寺・大本山總持寺などの坐禅堂(僧堂)に準じた形式のもの」というからありがたい。ビルの中の坐禅堂とは思えない立派なつくりで、厳粛な雰囲気が漂っている。
9時の坐禅開始時刻の前には、すでに多数が入堂して坐禅を始めている。シニア層の男性が圧倒的に多いが、女性の姿も見えるのは、この講座が始まった昭和37年と同じ光景だ。
昭和37年の読売新聞に「駒澤大学で坐禅の公開 初回から75人も参加」という記事がある。
「曹洞宗の駒澤大学では今年が創立80周年に当たるので、坐禅を一般に公開する日曜参禅会と禅文化講座を設置(中略)。全都内からゲタばきにジャンパー姿の商店主、サラリーマンらしい青年、セーターを着たお嬢さんなど数人の婦人をまじえ75人があつまった」
当時から「坐禅+講義」のかたち。55年前は1か月100円だったという。今は1回500円。坐禅+講義でも、どちらか一方でも同じなので、ぜひ両方受けることをお勧めする。事前の申し込みは不要。初めての人は8時30分までに受付を終えれば、初心者向けのレクチャーを受けられる。身だしなみはきちんと、という注意はあるが、55年間「ゲタ履きにジャンパー姿で気軽に市民が参加できる講座」という雰囲気には変わりがないようだ。
初心者には、手の形、足の形など作法をレクチャー
初心者向けのレクチャーでは、作法を細かく教えてくれる。
〇堂の中では、叉手(しゃしゅ)という手の形が基本。これは、左手の親指を中にして握り、左手の甲を右手の掌で覆い、右手の甲を上にして胸の前に置く、というもの。
〇坐禅堂に入るには、叉手をして、前門の左端から入り(入る時は左足から)、斜めに二、三歩前進して、正面に向かい合掌低頭(左右の手を合わせながら頭を下げる)する。
〇坐禅する場所(単)は、好きな所を選ぶことができるが、初心者は指示された場所に坐る。まん丸い大きな饅頭のような形の坐蒲(ざふ・座布団のこと)があり、その形の整え方、坐禅をする単への上がり降り、坐り方などを教えてもらいながら、実践できる。
〇足の形は「結跏趺坐」(けっかふざ)「半跏趺坐」(はんかふざ)のどちらでも良い。両足の足の裏が上を向いて組み合わせる結跏趺坐は上級者向き。半跏趺坐は左足を右の腿の上に置くだけなので、初心者にはこちらがおすすめだ。
〇手の形は「法界定印」(ほっかいじょういん)。手のひらを上に向けて、左手の指を右手の指の上に重ね、左右の親指を軽く接して楕円を作るというもの。この形で手を自然に足の上に置いた姿となる。
さまざまに決まりがあるが、作法のパンフレットをもらえるので、自宅でも復習できる。
「お昼ご飯はどうしよう」と考えてしまう
この日の参加者は約100名。ひとりで来ている人が多い。
目をつぶらずに、壁の板に向かって坐禅をする。時間は約40分から45分。この間、何も考えないで過ごさなければいけない。
この日、堂頭(どうちょう=坐禅堂の責任者、指導者)として指導にあたったのは、駒澤大学仏教学部禅学科の熊本英人(くまもとえいにん)教授。
「何も考えないというのは難しいことです。『何も考えないというのは難しいものだ』ということを、どうしても考えてしまいます。心に浮かぶものを浮かぶに任せて、消えゆくものは消えるに任せてください」(熊本教授)
記者も参加したが、「何も考えない」と思えば思うほど、そこに意識が集中してしまう。考えないようにしなければ、と思っても「お昼ご飯はどうしよう」とか、「高校生の時の体育館の風景はどんなだったのか」など、どうでもいいことをついつい考えてしまう。
頑張って何も考えないように気合いを入れたいと思っていると、ふと気づくと途中で寝てしまう。しまいには寝ているのか、寝ていないのかが自分でもわからなくなってくる。寝てしまうと、手の形「法界定印」の親指が離れてしまう、ということもわかってきた。
足はしびれない、つらくない
「考えないように→ついつい考えてしまう→これじゃダメだ→いつのまにか寝る→ハッと気づく」
この繰り返しを3~4回しているうちに、坐禅は終了した。約45分は短いと感じた。
始めての坐禅体験で驚いたのは、坐蒲(ざふ)が厚くて坐りやすく、足が極端に太くて短い記者でも、「半跏趺坐」(はんかふざ)ならば容易に組めたことだ。心配していた足のしびれもほとんどなく、痛い思い、辛い思いはまったくなかった。
日曜の朝のすがすがしい気持で坐禅を組む。この講座が55年間続いているのもなるほど、と思う。坐禅を未体験の人は、ぜひ参加してみることをおすすめする。
〔あわせて読みたい〕
英語にしたら見えてくる「落語とはなんだろう」
◆取材講座:駒澤大学日曜講座「坐禅」(駒澤大学駒沢キャンパス)
文・写真/奈良 巧