29人ノーベル賞輩出した研究所の3つのポリシー

サイエンスカフェ「タンパク質の不思議への挑戦」@大阪大学総合学術博物館

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過去の栄光も流行も投げ捨てよ

1938年からキャヴェンディッシュ研究所の所長になったのは、ローレンス・ブラッグ。X線を用いて物質の構造を研究し、父のヘンリー・ブラッグとともに25歳でノーベル物理学賞を受賞した秀才である。彼が所長の時、ジェームス・ワトソンとフランシス・クリックがDNAの二重螺旋構造を解明し、同じ頃にマックス・ペルーツがヘモグロビンの構造を解明する研究を行っていた。

1962年にジェームス・ワトソンとフランシス・クリックがノーベル生理学・医学賞を、ペルーツがノーベル化学賞を受賞。5部門6人が受賞したうちの半分がキャヴェンディッシュ研究所の研究員という、たいへんな功績を残したのである。

ブラッグは3つの方針を打ち立てたそうだ。

1つめは「過去の栄光にすがらない」
このエピソードを聞いて、飲みの場だったりビジネスの場などで、昔の自慢話しかしない人のことが頭に浮かんだ。本人は気持ちがよいかもしれないが、それ以後その人に進歩がなかったことの証明でももある。なにかを達成しても、その後はすぐに忘れて次の山にとりかからなければ、次の成果はやってこない。

2つめは「流行を追わない」
この話を聞いて思いだしたのは、青色発光ダイオードを発明した中村修二氏のことだ。当時、青色発光ダイオードの発明に向けて、学会や研究者らは、セレンという元素を用いた研究に注目していた。しかし中村氏は、周囲からの冷ややかな視線を受けながら、ガリウムを用いた研究を続けていたと聞く。ブームに乗ってセレン系に目を向けていたら、ノーベル賞を受賞するような研究はなし得なかったかもしれないのだ。

そして3つめは「理屈ばかりで行動しない人からの批判を恐れてはいけない」。 何かがうまく行かないときに、理屈をつけて満足している人がいる。それでは研究は前に進まないし、ブラッグはそういう人からの批判を恐れてはいけないというのだ。

「それが本当に大事だと思ったら、勇気を持って進まなければならない」

ビジネスでも同じで、なにか新しいビジネスを始めようとしたり、山に突き当たったときに「それはこれこれこういう壁があるから無理だと理屈をこねることが、客観的視点を持った有能な人物だ」と勘違いしている人が多い。しかしなにか障害があったとき、その解決法を考えなければ、新しいものを生み出すことはできないのだ。前進しなければ、ビジネスはいつか時代に取り残されて衰退していく。水谷先生は「それが本当に大事だと思ったら、勇気を持って進まなければならない」と言う。

先生は講座の冒頭で、日本で2人目のノーベル賞受賞者である朝永振一郎氏の言葉を引用した。 それは、

ふしぎだと思うこと
これが科学の芽です
よく観察してたしかめ
そして考えること
これが科学の茎です
そうして最後になぞがとける
これが科学の花です

という、子どもたちに向けたメッセージだ。

この世の中には、まだまだ解明されていないふしぎがたくさんある。しかし科学の研究には、10年、20年、30年と長い時間がかかるものだ。「ふしぎ」から芽を出し、花を咲かせるためには、長い時間の努力と、発想の転換が必要だ。それにはブラッグの立てた3つの方針はかなり必須項目と言えるかもしれない。

〔大学のココイチ〕マチカネワニ。大阪大学豊中キャンパスから出土したワニの化石。日本で発見されたワニの化石第一号で、ワニの中では大型だとか。博物館入り口にドドンと構えている。

取材講座データ
サイエンスカフェ「タンパク質の不思議への挑戦」 大阪大学総合学術博物館 2017年3月4日

2017年3月4日取材

文/和久井香菜子 写真/まなナビ編集部、(c)polesnoy、jamesteohart / fotolia

〔関連施設〕 大阪大学総合学術博物館

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