2021年文化庁京都移転が京都に与える影響とは

公開講演会「歴史都市の保全と継承政策」@立命館土曜講座

世界的にも人気の高い観光都市、京都。その京都に2021年、文化庁が移転する。目的は何か、どう変わるのか。文化庁担当者、文化財所有者、そして研究者の三者が議論する興味深いパネルディスカッションが京都で開催された。

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「歴史都市の保全と継承政策」パネルディスカッション。左に司会者・鐘ヶ江先生、パネリストは左から松坂浩史氏、冷泉為人氏、大窪健之先生

世界的にも人気の高い観光都市、京都。その京都に2021年、文化庁が移転する。目的は何か、どう変わるのか。文化庁担当者、文化財所有者、そして研究者の三者が議論する興味深いパネルディスカッションが京都で開催された。

“京都”を継承する、新しい取り組みに向けて

2017年10月7日、立命館大学(京都市)の土曜講座で公開講演会「歴史都市の保全と継承政策」が行われた。「京都・若狭文化財の継承保存と文化行政」と題した冷泉為人氏の基調講演(「冷泉家当主「国宝を守るには自助努力だけでは困難」」参照)の後、パネルディスカッションが行われた。

パネリストは3名。文化庁地域文化創生本部事務局長の松坂浩史氏、冷泉家第25代当主の冷泉為人氏、立命館大学歴史都市防災研究所所長の大窪健之先生、そして司会は、立命館大学歴史都市防災研究所教授の鐘ヶ江秀彦先生である。

司会の鐘ヶ江先生によると、このパネルディスカッションは、「最先端の文化継承を長年している冷泉先生」と、「文化庁移転の責任を一身に背負う松坂氏」と、「ユネスコと手を組んで文化遺産防災に関する国際研修の取り組みをしている世界唯一の研究所所長である大窪先生」による、新しい動きを紹介することが目的であるという。どんな動きなのだろうか。

京都は「保存」の先進的な街

京都という町は、行政が動く前に、町衆や市民が動く街である。冷泉先生の時雨亭文庫も、観光立国が声高に叫ばれるはるか以前から、文化財を活用しながらの文化財継承保護活動を行っている。(詳しくは「冷泉家当主「国宝を守るには自助努力だけでは困難」

文化庁の松坂氏は、京都を評して「保存の先進的な街」だという。

「“祇園祭”もそうですが、京都という都市は、行政が遺す遺さないを決めるよりも前に、市民が遺そうと努力しています。ひとつひとつを守っていくのは大変なことです。相当大変だけれど、文化庁が京都に来て、京都の人はこんなことをやっているよというのを全国に広めていきたいと思っています。また、文化財ではないですが、京都には京都国際マンガミュージアムのようなものもあります。今日も立命館大学に来ましたら、火の鳥のレリーフがあってすごいな、と思いました。

じつは、”本当によいもの”と”捨ててよいもの”の別は、後世にならないとわからないんです。これは文化財についても同様ではないでしょうか。例えば、古い街並みの中で、近代的なコンクリート建築を建てて、それが建築の世界で高い評価を得たというようなことがありますが、今から考えると、それは歴史的な古い街並みを壊しているということではないか、価値のあるものをこわしてしまったんじゃないか、と。

その当時はそれが最上と思われていたことでも、後になってみると適当ではなかったということもあります。だからといって全部遺せるかというと、文化庁としては全部遺したいけれど、行政の力だけでは、それは不可能です。なので、京都のような古伝統文化都市の“重層的な文化や文化財をみんなで守っていく”ことを広めていけたらと思います」(松坂氏)

町家問題と、これからの京都

京都の先進的な保存施策例について、司会の鐘ヶ江先生が紹介した。

「京都は景観を守るための都市行政が進んでいます。日本で初めて遠景を守るための“ダウンゾーニング(無秩序な開発に歯止めをかけるため特定地域で建築物の法定容積率を引き下げること)”を実施しました。つまり、建物の高さに制限をかけたんです。10階建てにできるものを8階建てまで、としました。もちろん、反対意見もありましたが、街並みや景観を守るためにこれを実施したのです」

しかし、保存の先進都市・京都にも、まだまだ問題点はある。そのひとつが「町家」だ。冷泉先生は、日本唯一の公家屋敷遺構である冷泉家住宅を所有・保存しているが、京の町家の多くは、減っていく一方だと、鐘ヶ江先生は警鐘を鳴らす。

「いま京の町家はものすごい勢いで減っています。他の都市では“廃屋は壊していい”という条例が作られ、京都でもこれからそうなっていくでしょう。しかし町家を失ったら京都の風景はどうなるのでしょうか。かといって町家をそのまま置いておくだけではいけないし、補助のお金は出ない。重要文化財に指定されても、登記されていないと所有者がわからない。大変な問題です」

2021年、文化庁の京都移転に向けて

2021年の移転にあたり、文化庁は「観光」と「生活文化」を二本柱に、様々な施策をしていくという。「生活文化」とは華道・茶道などの伝統文化や、食を取り巻くさまざまな文化(調理器具や食器、所作や配膳、栽培方法や狩猟方法など)を指す。文化を観光の目玉にするだけではなく、文化と現代社会をうまく融合していくような施策で、生活文化の振興を図っていきたいという。

歴史都市防災研究所の大窪先生も、知恵と人材の面で文化庁の文化行政に貢献しながら、観光都市・京都に訪れる旅行者の安全を守る「観光防災」について考えていきたいと話した。また、「文化庁という行政、冷泉先生のような管理者、そして研究者という知恵を絞るところが共同して、地元京都を基盤にモデルプロジェクトができればいいし、できればそれを保全継承、安全を確保していく事業として、日本、世界へとモデルプロジェクトができれば」と、今後の抱負を語った。

冷泉先生は「文化庁が京都に移ってくるということで、江戸時代のような二極に戻ったんちゃうかな」と、歓迎した。

文化庁が移転するのは、東京オリンピックの翌年。その時、京都はどう変わっているのだろうか。

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◆取材講座:講演「京都・若狭文化財の継承保存と文化行政」(立命館土曜講座)

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文・写真/植月ひろみ

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