認知症が急カーブを描いて増える、魔の年代がある!

頭の健康を考える

認知症は高齢者の病気で、高齢になるほど発生数が増える------と考えられがちです。しかし5歳きざみの年齢層別に認知症の有病率をみると、ある年代で急増していることがわかりました。

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認知症は高齢者の病気で、高齢になるほど発生数が増える——と考えられがちです。しかし5歳きざみの年齢層別に認知症の有病率をみると、ある年代で急増していることがわかりました。

認知症の発生が急激に増える魔の年代とは?

認知症、ならないために:こぼれ話編 その3

それは60代前半から後半にかけて、です。

認知症の有病率を年齢別に見ると、60〜64歳が0.189%、65〜69歳が2.9%です。この間、実に15倍増! ということになります。ちなみに70〜74歳は4.1%、75〜79歳は13.6%です。80〜84歳では21.8%となって「約4人に1人」に突入。85〜89歳は41.4%と半数に近づき、90〜94歳で61%と半数を超えます。

 

有病率だけでみれば、60代の認知症患者は3%弱で少ないですが、注目していただきたいのは、なぜこの年代に急増するかということです。

定年退職直後は要注意

一番の理由として考えられるのは定年退職です。会社や組織によって異なりますが、おおむね60〜65歳でしょう。

特に男性の場合、何十年も勤め上げた会社を離れ、仕事仲間と顔を合わせることもなくなり、生活がガラッと変わります。家で特にすることもなく、打ち込む趣味もなく、人づきあいも疎遠になり……、家に閉じこもりがちになる人も少なくありません。うつ症状に引き込まれる人も多いです。

家庭で明るい会話ができればいいのですが、それも少ないと、「一日、誰ともしゃべらなかった」なんていうことになります。身体を動かすのがおっくうになって運動不足にもなりがち。こうなるとまさに「魔の年代」そのものです。

脳を活性化させるのは他者とのコミュニケーション

対策としては、仕事に代わる社会的活動、レジャー、ボランティアなどに関わることが一番です。他者とのコミュニケーションが脳の働きを活性化させるからです。予防医学的な研究によれば、社会的活動に積極的な人ほど認知症になりにくいといわれています。

そして趣味をもち、打ち込みましょう。写真を撮る、絵を描く、ガーデニング、観劇、スポーツ観戦、工芸、裁縫など、趣味に打ち込むことで脳は活性化します。ウォーキングやサイクリングなどのスポーツや旅行、自然散策など、身体を動かすことも認知症予防にもなります。今までできなかった勉強を始めるいい機会でもありますね。リタイア後のプランを練っておくことが、ひとつの認知症対策といえるでしょう。

(ひとくちメモ)◎認知症による“逆走”
警察庁の調べによると2010年9月〜2013年3月に高速道路で起きた車の“逆走”は612件。このうち65歳以上の運転手による逆走が66%を占めます。そしてその約半数の運転手が認知症か、その疑いがあったということです。

■監修■伊古田俊夫
いこた・としお 1949年生まれ。1975年北海道大学医学部卒。勤医協中央病院名誉院長。脳科学の立場から認知症を研究する。日本脳神経外科学会専門医、認知症サポート医として認知症予防、認知症の地域支援体制づくりに取り組んでいる。著書に『40歳からの「認知症予防」入門』(講談社)など。

[伊古田先生からのメッセージ]→「認知症予防とは、認知症を『先送り』することです」
認知症を「予防する」ということは、「一生、認知症にならない」ということではありません。認知症の原因は、今もわかっていないからです。確かなことは脳の老化だということ。ですから認知症を100%予防することはできませんが、発症する年を「遅らせる」ことはできます。いわば認知症の先送り。これが予防策をみなさんに広く知ってもらいたいと願う理由です。

文/佐藤恵菜 イラスト/みやしたゆみ

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