憲法で考える天皇の生前退位、トランプより強い総理

【Interview】中央大学副学長 橋本基弘先生

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「憲法はまるで空気のようなものです」

アメリカ国民が政権に銃口をつきつけて憲法を守らせる権利

――聞けば聞くほど、憲法を知ることは社会を知ることにつながるのだと思えてきます。憲法について、「わたしたち国民を守るためのものです」というお話がありました。これについて、詳しくお聞かせください。

橋本:それについては、アメリカ合衆国憲法を考えるとわかりやすいのです。アメリカ合衆国憲法には、銃を持つ権利があります。このために銃規制ができないという弊害があるのですが、では合衆国憲法で所持が保障されている銃の銃口はだれに向けるものなのだと思いますか? その銃口を向ける対象は連邦政府なんです。合衆国憲法を守らないという政権が出てきたとき、アメリカ国民が政権に銃口をつきつけ、憲法を守らせる力があるという権利を、アメリカ国民は有しているのです。合衆国憲法は200年以上続いている。なぜ続いているかというと、守らないと国民から銃口をつきつけられるからです。

翻って日本でも、日本国憲法は、国民の権利を政府が侵害しないように定めているものなのです。もしそれを侵害することがあれば、国民はNOを突き付けることができる。実際、70年間、憲法はずっと守られてきました。自民党は今の憲法を批判し続けてきたけれども、きちんと守ってきている。じつは憲法は、守らなくても罰則はないのです。

――憲法は守らなくても罰則がないのですか?

橋本:はい、守らなくても処罰されない、というのが憲法です。「たとえば犯罪をおかすと処罰されますし、名誉毀損をすると損害賠償請求をされます。しかし、憲法は、守らなくても処罰されない。でも守ってきている。なぜでしょう?」という話もよく受講生にします。それは、憲法を守らないと社会が混沌としてしまうのだということを、政治を担っている人が意識しているからだと思います。それからもうひとつ大切なことは、先ほどの合衆国憲法の例でもわかるように、国民が守らせている、というところが大きいと思います。

――最後にお聞きします。憲法はわたしたちにとって、どのような存在なのでしょうか。

橋本:憲法とは、空気みたいなものなのです。あたりまえのようにそこにあって、普段は存在に気づかない。しかしそれが失われたときに初めてわかる。だから、それを意識しないで生きていけることこそが、健全なのかもしれません。自由だとか平等だとかをあえて考えなくてもよいということは、幸せな状況なのでしょう。憲法を意識するということは、なにがしかの不自由なり、なにがしかの差別なりが生まれてきている、ということなのかなと思っています。

だからこそ、誕生して70年となる憲法について考えてみることは、私たちの暮らしに潜んでいて、まだ私たちが気づいていない、さまざまな問題を考えてみるきっかけとなるのです。さまざまな社会経験を積み、複雑な人間関係の中で生きている社会人の方が憲法を学ぶなかで気づかされることはまだまだ多くあると思いますし、私も受講生の皆さんと、一緒に学んでいきたいと思っています。

〔関連講座〕憲法入門-日常生活の視点から考える-

2017年2月17日取材

文・写真/安田清人(三猿舎)

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