健康長寿を脅かす「フレイル」とはいったい何? その5つの診断基準とは

老後の健康を考える

東京都健康長寿医療センターにょれば、群馬県の一地域の高齢者約1,500人について平均7年(最大12年)の追跡研究を行ったところ、研究開始時点で「フレイル」であった人がその後要介護状態になる割合が大変に高いのに対し、メタボであるかどうかはこの割合にほとんど影響しなかったという。「フレイル」とは健康と要介護の中間の状態をさすというが、その具体的な身体症状とは何なのだろうか。日本女子大学准教授で運動生理学・健康科学を専門とする佐々木一茂先生による「フレイルを知る・予防する・改善する」講座で「フレイル」について学んだ。

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東京都健康長寿医療センターにょれば、群馬県の一地域の高齢者約1,500人について平均7年(最大12年)の追跡研究を行ったところ、研究開始時点で「フレイル」であった人がその後要介護状態になる割合が大変に高いのに対し、メタボであるかどうかはこの割合にほとんど影響しなかったという。「フレイル」とは健康と要介護の中間の状態をさすというが、その具体的な身体症状とは何なのだろうか。日本女子大学准教授で運動生理学・健康科学を専門とする佐々木一茂先生による「フレイルを知る・予防する・改善する」講座で「フレイル」について学んだ。

フレイルの人は5年後に約半数が要介護状態に

「フレイル区分別にみた自立曲線」
(東京都健康長寿医療センター研究所プレスリリースより)

上の図は東京都健康長寿医療センターが昨年11月中旬に発表したプレスリリースに掲載された「フレイル区分別にみた自立曲線」グラフである。縦軸にある「累積自立割合」とは自立した生活ができている人の割合を示す。つまり、率が低いほど、要介護となった人や亡くなった人が多いということになる。

調査開始時にフレイル状態であった人(グラフ中の赤線)が急激に自立度を失い、およそ5年で50%くらいの人が死亡または要介護状態となってしまっているのがわかる。

高齢者の健康にメタボであるかどうかはあまり影響しない?

下の図は同じプレスリリースに掲載された「メタボリックシンドローム区分別にみた自立曲線」だ。見てわかるように、メタボであった人と、メタボでなかった人では、ほとんど差がない。

「メタボリックシンドローム区分別にみた自立曲線」(同前)

あくまでも高齢者に限っての話だが、メタボであるかどうかは高齢者のその後の生活の自立度や健康寿命、長生きできるかどうかに、それほど関係がないことが、このグラフから読み取れる。

一口に高齢者といっても、年代で注意するところは異なる

佐々木先生は言う。

「国民生活基礎調査(厚生労働省)によれば、要介護になった主な原因は以下のものです。

40~64才では脳梗塞や心筋梗塞といった『脳血管疾患』が5割を占めますが、90才にもなると1割くらいに減ります。代わりに『認知症』が25~30%、『骨折・転倒』が20%くらいと増えてきます。

しかし最も増えるのは『高齢による衰弱』です。これは、はっきりした理由はないけれども身体が弱ったために要介護となる人の割合で、70代くらいから急激に増え始め90代では30~40%を占めるようになります。

メタボは脳血管疾患を引き起こしやすいのですが、高齢になればなるほど、脳血管疾患が原因で要介護となる人の割合は減っていくのです。

また、東京都健康長寿医療センターの2015年2月の調査では、これも高齢者に限った話ではありますが、細い人(痩せている人)、少し細い人、少し太い人、太い人(肥満の人)に分けて生存率を追跡調査したところ、8年後の生存率が最も低かったのが細い人でした。しかし、少し細い人、少し太い人、太い人ではほとんど差がなかったのです。

つまり65才~70才くらいまでの中高年期には主にメタボにならないよう注意して生活し、それ以降の高齢期にはフレイルにならないように注意して生活していくことこそが、健康寿命を長く維持し、結果的に長生きすることにつながるのです」(佐々木先生)

ただしこれはあくまでも一般傾向で、肥満が多くの生活習慣病を引き起こすことは事実なので、極度の肥満には注意が必要なのは言うまでもない、という。

あなたは大丈夫? フレイル5つの診断基準

このような急激な健康状態の悪化を引き起こすフレイルとはいったいどういうものなのか。

そもそもフレイルとは、英語「frailty」の訳語として日本老年医学会が提唱したもので、健康な状態から要介護状態へと移行する間の状態をさす。国の診断基準や国際基準はまだない。研究上の分類には、アメリカの老年医学者リンダ・フリード氏が提唱した次の5つの診断基準がよく使われている。

(1)体重減少
目安としては、2年間で5%以上の体重低下。60㎏の人なら3㎏だ。それってダイエットの範囲内では?と言われそうだが、明らかな理由がなく自然と減っていくというのがポイントだ。
(2)筋力低下 
筋力を計るには握力計が安全かつ便利だ。また握力の低下は、全身の筋力低下をよく反映するとされている。男性で26㎏未満、女性で18㎏未満が目安となる。
(3)疲労感
これは主観的に疲れている、活力がないという状態で、例えば次の2つのどちらかに当てはまるかどうかで診断する。
・「何をするにも面倒だ」と思うことが1週間で1日以上ある。
・「仕事が手につかない」ことが1週間で1日以上ある。
(4)歩行速度の低下 
普段歩いている時の速度が、秒速1メートル(1分間に60メートル)未満であることが目安。普通の人よりちょっと遅いかなという程度である。
(5)低活動度
これは相対評価で、同世代の中で下位20%に当てはまるかどうか。質問票などで診断される。

以上のうち3つ以上当てはまるものがある人がフレイルだと診断され、1つか2つ当てはまる人がプレフレイル(フレイル予備群)、ひとつも当てはまらない人は健康とされる。

サルコペニアとはどう違う?

フレイルと似た言葉に「サルコペニア」というものがある。これは、年とともに筋肉量と筋力が減った状態をいう。

佐々木先生は、「フレイルとサルコペニアはよく似ていますが、サルコペニアはとくに筋肉に焦点を当てた概念です。体重減少はフレイルの重要な診断基準ですが、これには当然、筋肉だけでなく脂肪や骨が減っていくことも含まれます。またフレイルは、疲労感などの精神的な面も診断基準に含まれています」と語る。

私たちは、中高年期と高齢期では、健康で注意するところが違うことを知らなければならない。中高年期にはメタボのリスクが最も高いから、肥満や体重増加に注意し、高齢期に入れば、逆に、痩せや体重低下に注意しなければならない。ともに共通するのは、筋肉量を増やしたほうがよいということ。

ではどうやって筋肉量を増やすのかについては7月15日公開予定「高齢者が鍛えなければいけない筋肉は実はコレ!有効な運動は日常生活のアレ!」で)

佐々木一茂
ささき・かずしげ 日本女子大学家政学部被服学科准教授
立教大学社会学部卒業。筑波大学大学院体育研究科、東京大学大学院総合文化研究科修了、博士(学術)。専門は運動生理学、健康科学。最近は特に女性の健康・体力づくりを中心に幅広く研究している。

 

◆取材講座:『フレイルを知る・予防する・改善する』(日本女子大学公開講座)

取材・文・写真/まなナビ編集室

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