「五輪は国威発揚」と理念違いの発言をした局解説委員

2020年東京五輪を考える ―オリンピックの歴史・思想と現実の諸問題―@明治大学リバティアカデミー

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オリンピックを通して、さまざまな国の人たちと交流が生まれる

オリンピックを通して、さまざまな国の人たちと交流が生まれる(写真は1964年東京オリンピック)

金メダル16個を目指す政府

大事なのは勝利より努力――翻って、日本の現実はどうだろうか。寺島先生はこう懸念を表明する。

「残念なことに日本では “勝利至上主義” が蔓延しつつあります。2020年の東京オリンピックでは過去最高の金メダル16個を目指すと、政府はすでに基本方針を発表しました。また残念だったのは、前回のリオオリンピックが終わった後、ある放送局の解説委員が『オリンピックの目的は国威発揚にある』と発言したこと。こうしたことは、オリンピックチャーターに書いてないどころか、反するのです」

もう一つ、日本人が忘れかけている重要な点を寺島先生は指摘した。

長野冬季五輪の「一校一国運動」

「ゲームだけがオリンピックではありません。オリンピック憲章には、オリンピックの運営をはじめ、オリンピックの芸術的側面など、オリンピックをとりまく様々な事業を網羅して<オリンピック>と定義されているのです

たとえば、1998年に開かれた長野オリンピック(冬季)では、国際相互理解を促すためのこんな取り組みが実施されていた。

「忘れている方も多いかもしれませんが、長野オリンピックのときは「一校一国運動」が行われました。オリンピックの前に、たとえば明治小学校(仮)はブルガリアを調べる。そうやって各小学校で一つの国について深く勉強し、互いに発表しあいましょうという運動。この取り組みが世界の相互理解につながりました。

そしていよいよオリンピックが始まると、長野にやってきた各国の選手が、調べてくれた学校を訪問し、交流したのです。選手たちも嬉しいし、調べた生徒たちも実際にその国の選手たちに会えて親近感が湧く。この運動はオリンピズムの精神を具現化した一つの行動だったと思います。東京オリンピックのときも、同種の運動がおこることを願っています」

知っていたつもりで、いつしか忘れていたオリンピックの理念。それを一人ひとりが取り戻すことで、東京オリンピックの見方は確実に変わるし、東京オリンピック自体も、大きく変わるはずだ。

取材講座データ
2020年東京五輪を考える ―オリンピックの歴史・思想と現実の諸問題― 明治大学リバティアカデミー 2017年春講座

文/まなナビ編集室 写真/SVD

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